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INTRODUCTION

 佐藤ひでこの演奏を聴いたのはいつのことであったか...
プロコフィエフの戦争ソナタを弾いていたのだがそれは凄まじいまでのテンションであった。音に対しての非常に鋭敏な感覚を持っており美しい音はもちろんのこと必要とあらばきつい音を出すことも厭わない。堅苦しいピアニストが多い中なんという爽快感であろうか。その上楽譜に囚われずその裏にあるものを本能的に感じ取って演奏している。作品からここまで色々な要素を読み取り指に伝えることのできるピアニストはそういるものではない。また、瞬間の閃きを大事にする為意外な表情や想像を超えたものが生まれるのだ。その表情それぞれが切れ込んだいわゆる攻めの表現なので聴き古された曲も何が起こるかわからない楽しみがある。構成も素晴らしい、このプロコフィエフもまず客観的に しかしどっしりと構築されており堅牢な建築然とした様相であった。この類い稀な構成力と野性本能的な躍動、即興性が結び付いた時、演奏としてはもうこれ以上何を望もうということになってしまう。当然の事ながらショパンもまったくもって独創的であった。葬送ソナタの終楽章など信じられない音が浮かび上がり恐ろしい程の集中力のもと美しくもグロテスクな世界観を作り上げていた。演奏を聴くというよりも固唾を飲んで見守る様な体験であった。これこそ真の芸術というべきであろう。
 
 佐藤ひでこの別の顔として完治が難しいとされるジストニアを発症するも自身のリハビリのみで完治させたほぼ前例のないピアニストというものがある。その経験を基に自ら学会で発表する程学究肌の面も併せ持つ。現在治療法もまとめ上げられているという。
佐藤ひでこは様々な意味で稀有なピアニストなのである。                                         森 曠士朗 (音楽評論家)